夜は銀色に流れる

月のない夜も 満月の夜さえも 世界は半分隠されている。 ここで語る偽りも いつか真実とすりかわる時が 来るかもしれない。

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一輪の花(浮竹十四郎)第四話

一輪の花(BLEACH)

山本元柳斎重國翁は腕を組み、部屋の中央に座っていた。浮竹はその前に片膝を付いた。山本は軽く手を振り、人払いをした。二人だけになると老人は言った。
「お前の失策ではない、立つが良い」
浮竹は素直に立ち上がった。老人は浮竹の顔に焦燥を見た。
「お前と千雪の事は知っている」
やはり知られていたかと浮竹は己を恥じ、頭を下げた。
「申し訳ございません」
山本はこの翁には珍しく温和な笑顔を見せた。
「良いのじゃ。短いながらも、あれも女の幸せを味わえるならと思うてな」
「確かに、私の命はいつ果てるとも・・」
老人の声が重くなった。
「いや、お前より先にあれが逝くじゃろう」
浮竹は驚き、思わず叫んだ。
「どういう事でしょうか」

山本はやや経ってから口を開いた。
「あれの斬魄刀が特殊なのは知っておろう」
「玻璃遮那(はりしゃな)の事ですか」
「一時とはいえ、大虚(メノスグランデ)すら動きを止められる」
「見た事はないのですが、そう聞いております」
老人の後ろに尸魂界の全体図が映し出された。老人は身体の向きを変え、そちらを指差した。
「これが我等の世界、だが今や危機にある」
「はい」
「あれは我等の切り札なのだよ」
老人は振り返り、浮竹の顔を見た。百戦錬磨の目が厳しく浮竹を見据えていた。
「あれの卍解を持って、多数の破面と大虚を足止めする。それを我等の勝機の礎とする」
浮竹は言った。
「千雪の霊力では、卍解は無理です」
老人はうなずいた。
「わかっておる。だが技術開発局によれば、その方法はあると言う」
浮竹は黙っていたが嫌な予感がした。あの部署の考える事は碌な事ではない。
「当人の霊力を一度だけ最大限に上げ、卍解に到らせる事は可能だとな」
山本も内心ではそう思っていたかもしれない。しかし総隊長である者は無情のままに言った。
「その後、その者は命が尽きる」

竜弦はソファに横たわる千雪を見下ろしていた。夜だというのに、リビングには小さな灯しかついていなかった。彼は雨竜が帰った後、こうしてずっと彼女を見ていたのだ。千雪は目を閉じたままだった。竜弦は身をかがめると、千雪の着物の襟に手をかけた。細い首から丸みを帯びた肩、ゆるやかな胸の膨らみの半分程があらわになり、薄闇の中で白く浮いて見えた。竜弦はソファの横に跪き、右手の中指を千雪の喉の中央に軽く押し当てた。男にしては繊細な指だった。そして何かを探るように、少しずつ指を移動していった。探り当てると指はそこで止まった。目を細めている。余程集中しているのだろう。彼の額には汗が滲んでいた。

竜弦の指先から霊気が千雪に流れ込んでいる。義骸にではなく千雪の本体にだ。指先が白い肌の上を移動した。又霊気を送る。数箇所にそれを繰り返した。彼の顔から汗が滴っていた。竜弦は上着を脱ぎ、ネクタイをゆるめた。そして心臓の鼓動を聞くかのように、千雪の胸に片頬を押し当てた。ひんやりとした肌の感触が火照った顔に心地良かった。百合に似た香りが竜弦を包み込んだ。竜弦は大きく息をし、目を閉じた。

今日もクロサキ医院は、日もすっかり暮れたというのに、なかなか患者が途絶える事がなかった。黒崎一心が、最後の患者である老婆がくどくどと礼を言うのをあしらい、送り出した頃には、いつもの夕飯の時刻はとうに過ぎていた。遊子の機嫌が悪いだろうなと一心は思いつつ、机の上のカルテの束をかき集めた。電話が鳴った。
「はい、クロサキ医院・・お前か、珍しいな」
受け答えをする一心の声の調子が変わった。真剣味を帯びている。
「とりあえず、行くからな」
一心は電話を切った。これ以上夕飯が遅れると、夏梨の毒舌も冴え渡りそうだと思いながら。


(続く)


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一輪の花(浮竹十四郎)第三話

一輪の花(BLEACH)

竜弦は病院の駐車場に向かった。白衣ではなく淡い砂色のスーツである。その後ろを浅黄色の着物を着た女が付き従うように歩いている。しかし女に意識はない。霊子の糸で人形の如く操られている。滅却師の最高戦闘霊術・乱装天傀の応用であった。竜弦は女を自分の車まで操り、後部座席に乗せた。女はどさりと座席に倒れ伏した。

雨竜は気が重かった。学校に提出する書類に親の印がいる。病院を訪ねると珍しく早くに帰宅したと言う。それで父のいる家へ向かい仕方なく歩いている。あまり良い思い出がない場所であり、それよりも父親と顔を合わせるのが嫌なのだ。

病院の規模に比べればこじんまりとした家である。玄関を開けると、父の靴ともうひとつ女物の履物があった。
(お客さんか?)
かまわず奥へ進んだ。竜弦はリビングにいた。雨竜の気配をすでに感じていたのだろう、竜弦は驚かなかった。立ったまま雨竜の方に、ちらりと冷たい視線を送った。
「挨拶もなしか、お前らしいな」
いつものように皮肉な声が飛んで来た。雨竜は黙って書類を差し出した。竜弦も黙って受け取り、側の棚に置いた。

雨竜はソファに一人の女が座っているのに気がついた。おかしな事に、雨竜は今まで何の気配も感じていなかった。女は目を見開いていたが、硝子のような瞳には何の感情もなかった。
「この人は?」
「それもわからんほど、お前は愚かになったのか?」
「何故、死神がここに」
竜弦は片手を前に突き出した。その手から霊子の針が無数に飛び、女に突き刺さった。女は悲鳴を上げて椅子から落ち、床に崩れ落ちた。
「何をするんだ!」
雨竜は驚いて叫んだ。
「今のこいつに死神の能力はない。それどころか、自分が誰かの記憶すらない」

雨竜は急いで女を抱き起こした。女は目を閉じていた。睫毛の長い美しい人だった。
「抵抗出来ない相手に、何て事を!」
竜弦は雨竜を見下ろした。
「お前は、死神を憎んでいるのだろう?」
雨竜は竜弦を下から睨みつけた。
「それとこれとは、話が別だ!」
竜弦の口元に薄っすらと笑みが浮かんだ。そして吐き捨てる様に言った。
「お前の甘さには、反吐が出そうだ」
竜弦は大股で歩み寄り、雨竜の手から奪う様に女の身体を抱き上げた。
「これ以上用がなければ、帰れ」
雨竜は立ち上がり、険しい顔で竜弦を見た。そして無言で玄関に向かい歩き出した。
「書類は、出しておいてやる」
その背中に竜弦が言った。雨竜は返事をしなかった。

抱き上げた千雪の身体を、竜弦はソファに横たえた。その仕草には、先程まで欠片もなかったいたわりがあった。眼鏡の奥から彼女を見つめる目にも暖かい光があった。しかしそれは一瞬であった。いつもの無表情を取り戻した竜弦は、棚から先程の書類を取り上げ、立ったまま目を通し始めた。

「浮竹隊長!!」
雨乾堂で横になっていた浮竹の元に、仙太郎と清音が争うように掛け込んで来た。浮竹は素早く起き上がった。
「どうした」
仙太郎が言った。
「現世の駐在任務に出た瀬能が、消息を絶ちました」
「なんだと!」
浮竹は思わず叫んだ。清音もこれ以上先を越されてなるものかとばかりに、仙太郎を押しのけて前へ出た。
「瀬能の霊圧が、空座町で突如として消えたそうです」
仙太郎も清音を押し返しながら言った。
「浦原商店を出た所までは、確認が取れています」
浮竹は穏やかならざる心地のまま、二人に言った。
「すぐに着替えて行く。お前達は待機していろ」
二人は頭を下げて出て行った。
(千雪・・)
浮竹は、千雪の百合に似た香りが、そこに漂ったような気がした。

(続く)

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一輪の花(浮竹十四郎)第ニ話

一輪の花(BLEACH)

「この私が、死神を助けるとはな」
病院の片隅の個室である。千雪は寝台の上に半身を起こし、目の前の竜弦を怯えた目で見ていた。片手を白衣のポケットに入れた竜弦は、千雪に近付くと、もう片方の手で乱暴に千雪の二の腕を掴んだ。そして顔を寄せて、低いが激しい声で問いかけた。
「お前の姉はどこにいる?」

掴まれた痛みと竜弦の目の奥の冷酷さに、千雪は更に怯え、うっすらと唇を開いた顔をゆっくりと左右に振り、目を伏せた。
「言え!知らないとは言わせんぞ!」
竜弦は腕を掴んだ手に更に力を込めた。そしてポケットから出した手で千雪の長く豊かな髪を掴み、顔を上向かせた。千雪の顔は恐怖で引きつった。
「死神め、私を甘く見るな」
その時、天井のスピーカーから声が響き渡った。
「院長先生、院長先生、至急、第一外科室までお戻り下さい」
竜弦は千雪の目から目を離さないまま、手だけを離した。
「後で、たっぷりと話を聞かせてもらうからな」

竜弦が出て行くと、千雪は寝台に崩れるように横たわった。何が起きたのか、千雪にはまったく理解が出来ていなかった。道を歩いていて苦しくなって倒れ、気が付いたらここにいた。目覚めると見知らぬ男がいた。だがどこかでその男の気配を感じた事があるようにも思えた。
(あれは誰だろう・・)
そして千雪は、もっと大切な事に気がついた。
(私は・・誰?)

ルキアは伝令神機をポケットにしまった。一護の部屋である。現世の情報を仕入れる為に「じょせいしゅうかんし」を床に寝転んで読んでいたのである。隣で同じ様に「しょうねんじゃんぷ」を読んでいたコンが、ぴょこんと立ち上がって言った。
「急ぎの任務ですかい、姉さん」
「いや、浮竹隊長からだ。同じ隊の者が近くに赴任して来るのでよろしくとの事だ」
「へえ、隊長さんがねえ」
「浮竹隊長は優しい方だからな。初めての駐在任務に就く者を心配しておるのだろう」
自分のベッドに寝そべっていた一護が声をかけた。
「そいつはどんな奴なんだ?」
「そうだな・・」
ルキアはスケッチブックを取り出すと熱心に絵を描き出した。描き終わるとそれを寝ている一護の目の前に差し出した。
「こんな奴だ。瀬能という、なかなかの美人だぞ」
そこにはウサギとも人ともつかぬモノが描かれていた。一護はその絵を見上げながら、聞かねば良かったと思っていた。

遠い場所で、笑う者がいた。大きな椅子にゆったりと座り、双眸に熱い理想と冷たい峻厳を共に宿していた。その者はつぶやいた。
「同じ手は二度食わぬぞ、浦原喜助・・」

その男の名は、藍染惣右介という。

(続く)

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一輪の花(浮竹十四郎)第一話

一輪の花(BLEACH)

浮竹は床に就いていた。
熱に浮かされた身体が重い。

藍染の裏切りで騒然とした護廷十三隊の建て直しに奔走した疲れが一時に出た様だった。元々病身であるのに、浮竹は無理を重ね過ぎた。だが四十六室全員惨殺の後、山本元柳斎重國がすべての権限を行使するにあたり、補佐は浮竹と京楽の役目であった。己の身体を労わる余裕もないままに、激務に身を投じるしかなかった。

仰向いたまま顔の前に手を翳してみた。斬魄刀を解放する度に削られていく命が、最近では誤魔化し様もなく切実に肌身に感じられる。それでもまだ刀は握れる、それだけが今の浮竹の心の支えであった。
(これでは、卍解すら、もはや危ういかも知れんな・・)

襖の向こうから女の声がした。
「浮竹隊長、薬湯をお持ち致しました」
「ああ」
浮竹は起き上がり、枕元の上衣を肩に羽織った。堆朱の盆に大ぶりの信楽焼の湯のみを載せて入って来たのは、十三番隊の平隊員瀬能千雪(せのう ちゆき)であった。古風な顔立ちの美女である。死覇装に包まれた華奢な身体は楚々とした風情があった。
「お加減は如何ですか」
「昨日よりは、大分良い」
苦い薬湯に顔をしかめながら、浮竹は答えた。千雪は床の傍らにいざり寄り、空になった湯のみを受け取った。

この女は山本総隊長からの預かり者だった。出自を総隊長に尋ねずとも、立ち居振舞いを見れば、格式のある家の出と知れた。彼女の斬魄刀は特殊であった。最上級の大虚でも一時とはいえ力を封じられるのだ。しかしそれ以外は鬼道も剣術も並であった。普通の任務にはあまり向かない者であった。
「ワシの孫娘のような者じゃ。京楽よりお前の所の方が良いと思ってな」
山じいが何を心配していたか、それを思うと浮竹は苦笑するしかない。今や千雪は浮竹の秘密の恋人であった。

護廷十三隊に所属する者でも所帯を持つ者もいるが、若い頃から病弱だった浮竹はそのような考えは捨てていた。それだけにこの女を愛しいと思い、深い仲になってしまった事が、自身にも驚きであった。自分がこの女には初めての男だと知り、うろたえたのは浮竹の方であった。女はそれを自然の理のように受け入れていた。

梳き解いた黒髪が褥に広がり、顔を埋めると百合の花の香りがした。二人の情が高まると、闇の中に浮竹の白く長い髪と千雪の黒髪が混じり合い乱れ舞った。それは傍で見る者がいれば妖しく心躍る光景であったろう。男にしては青白い浮竹の肌よりもなお白く、千雪の肌は漆黒の夜でも光を帯びて見えた。病の身の何処に、これ程の愛欲があったのかと思う程に激しく、浮竹はこの女を愛した。身体に障ると解っていても、浮竹は我慢する事はやめていた。千雪はそれを咎めだてする事はなかった。したり顔で何か言ったり母親めいた事をしようとしない。それが浮竹には好ましかった。物自体余り言わぬ女であった。

千雪の現世への駐在任務の案を仙太郎が持って来た時、浮竹はあえて反対はしなかった。半年の別れを寂しくは思うとしても、それは職務の上では言える事ではなかった。駐在場所は例の空座町に隣接していた。
「私に勤まるでしょうか」
千雪は不安な顔をした。
「近くに朽木もいる。困った時は頼るがいい」
浮竹は隊長の顔で言った。
「お前なら大丈夫だ」

千雪は現世に旅立っていった。

義骸とはこれほどに不自由な物なのか。千雪は戸惑っていた。
「すぐに慣れるっすよ」
浦原喜助はそう言い、千雪を店から送り出した。浦原が一瞬妙に粘る目をした、千雪はそう感じたが、この海千山千の男の思う事など千雪に解る筈もなかった。

店を出てしばらくして、千雪はますます強まる身体の異変を感じていた。歩いているだけなのに身体が重い。息が苦しい。
(どうしたのだろう・・)
目眩がして、千雪はそこに倒れこんでしまった。急ブレーキの音がした。車は千雪の直前で停まった。慌しい動きで運転席から降りて来たのは、眼鏡をかけた男であった。神経質そうに眉間に皺を寄せ、男は意識のない千雪の身体を抱き起こし、手首の脈をみた。そして千雪の顔を見て、驚きをあらわにし、その顔が蒼褪めた。男は千雪を抱き上げると、自分の車の後部座席に横たえ、外から隠すように毛布を掛けた。車は走り出した。向かった先は空座総合病院、男が院長を務める病院である。

男の名は石田竜弦という。

(続く)

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長き幕間

Information

お待たせしております。

長き夜をゆうるりとお過ごしいただくのが
当館の方針で御座います。

今しばらく・・ご歓談のほどを。


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