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魔界都市シリーズ

魔界都市日記 九

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◯月◯日

「君を迎えに来たんだよ」
美しきマン・サーチャーは言った。助けを求める様に傍らの師を見ると、師は黙したままマン・サーチャーを見据えており、私の方を見ようともしなかった。私を探している?誰が?私には身寄りもなく、区外にはそのような知り合いがいる覚えはなかった。私は目の前の青年に問いかけた。
「どうして?」
彼は微笑したのみであった。

師が鋭く彼を見た。
「誰に頼まれた」
「藪医者」
のどかな答えに、師は毒気を抜かれた様な表情になった。どんな険悪な空気をも春風に変えてしまう雰囲気が、この青年にはあった。だが、師はすぐに険しい表情に戻った。
「彼女は私の保護下にある。いくらドクターでも邪魔する権利はない」
「それは彼女が決める事です」
青年の言葉に、いくらか冷たいものが混じり始めた。
「治療を受けるか否かは」
その美貌はふたつの顔を持っていた。 人の良いせんべい屋の若主人と、冷徹なマン・サーチャー、そして「僕」と・・・

青年は私に問いかけた。
「君は何処からこの街に来たの?」
突然、私は気がついた。私は何も覚えていない。思い出せないのだ、区外で暮らした記憶を。がくがくと体が震えた。何故?何故?何も。混乱する私に、師は激しい口調で言った。
「奴の言葉に耳を貸すな!」

叫びが私の喉からあふれた。自分が何を叫んでいるのすらわからなかった。ただ体の奥底からそれはあふれ、私は獣の様に悲鳴をあげ続けた。師はなにやら片手で印をつくり、何事かつぶやこうとしたが、それは常人には不可視の妖糸に阻止された。片手をぐいと引っ張られ、師はよろめいた。
「何をする!」
師は声を荒げて青年を睨みつけた。その顔は憎悪に満ちていた。そんな師の顔は見た事がなかった。私の奥から悲鳴と共に込み上げる”何か”があった。それが私を満たしていった。ここに居てはいけない、”何か”が私にそう教えた。私は窓に身を躍らせた。硝子の割れる音、私の身体は通りに転がった。出来る限り素早く、私は立ち上がった。
「待つんだ!」
師の声がした。しかし私の中の”何か”は、ひたすら走る事を命じていた。遠くへ遠くへ、さらに遠くへ。ここから遠くへ。逃げるのか、帰るのか、解らないままに。師も青年も追っては来なかった。互いに牽制しあっている気配がした。


今、私は”危険地帯”の廃墟にいる。

崩れかけた壁に身を持たせかけている。ここは妖気も強く、常人なら気が狂ってしまうだろう。私は平気だ。この魔界都市に”来た”私なら。そうして私は知っている。 限りなく細い、だが限りなく強靱な希望が、まだ私と繋がっている事を。


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