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魔界都市シリーズ

魔界都市日記 八

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◯月◯日

その壁は「安らぎの壁」と呼ばれていた。

魔震にも耐えた古いデパートの表側の一部であった。その壁に触れると心が安らぐと言い出したのは誰であったのか。日に数人、壁の前に立つ者がいる。或る者は真剣な面持ちで、また或る者は半信半疑で壁に手を伸ばす。結果はどうであったのか、それは当人にしか解らない。

近くを通りかかったので、壁の前に立ってみた。誰もいなかった。大理石の表には、様々な太古の生き物の痕跡が残されていた。それ以外にはとりたてて奇妙な所はない。鬱々と抱えている思い、それが楽になるのなら。私は壁に向かって手を差し伸べた・・・

「さわるな!」

背後から声がした。 驚いてふりかえると、この世の物質ではない物で作られたカラスが羽ばたいていた。あの大魔道士の持ち物だった。
「さわらない方がいいよ」
しわがれた声が言った。 ばたばたとカラスは私の頭上を飛び回った。
「何故なの?」
私は尋ねた。
「安らぎなんて、簡単に手に入れられると思うかい?」
カラスは地面に降りた。
「この壁は人の魂を飲み込むのさ」
感慨深げに首をかしげながら、カラスは話を続けた。
「魂をなくした者はふぬけになる。一見、心安らかに見えるってわけさ」


何時から壁に異変が生じたのか、私は気付いていなかった。大理石の表面に白い影が浮かびはじめていた。ぎゃーぎゃーとカラスが鳴いた。それは見る見るうちに人の輪郭を取りはじめた。そしてエジプトの浮き彫りの様に、徐々に壁から浮き上がり厚みを増していった。

白い影はすでに前半分が壁から外へと出ていた。美しいと言うのもはばかられる程の美貌ゆえに、壁は大きく波打ち、ひとたびおのれに刻まれたその姿を失うまいと身悶えしているかの様であった。しかし完璧なかんばせは動じる気配は微塵も見せず、アスファルトの上に降り立った。昼間ですら夜の闇の艶やかさを帯びているその人物は、白いローブの表面を軽く片手で払った。

思わず私は呼びかけた。
「ドクター・・」
神の似姿のうちで最も寵愛を受けた顔が振り返った。
「往診の帰りでね」

「安らぎの壁」など、この街には不要なのだ。この街に彼がいる限り。

遠ざかる後ろ姿が白昼の光に溶けた。
カラスが珍しくいい声で、カァとひと声鳴いた。


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