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魔界都市シリーズ

魔界都市日記 七

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◯月◯日

西新宿の煎餅屋の店先は、今日も観光客で賑わっていた。店主の美貌を一目見ようと、若い女性達が頬を上気させてカメラを手にひしめきあっていた。だが写真などであの美を写し取る事は不可能であろう。ましてや素人の腕では。
「はい、こちらはしょうゆせんべいね、ありがとう」
今の彼は、愛想良い若旦那であった。サイボーグの化物を一刀両断したのと同じ人物とは、とうてい思えない。

いや、同じではない。
あの時の彼は、確か自分の事を・・・


早稲田通りからひとつ奥へ入ると、閑静な住宅街である。このあたりを歩いていると、ここが”新宿”である事を忘れてしまう。そうして私は思い出す。私の生まれたあの街を。

しかし、ここは”新宿”だった。

のどかな筈の昼下がり、おぞましい光景が繰り広げられていた。明らかに改造された肉体を持つ男が、人を喰らっていた。少女の屍体を。犠牲者のちぎられた手足は、赤い血潮にまみれていた。男はそれにかぶりついている。強化された筋肉にぼろぼろの衣服のなごりが張り付いてはいたが、その思考はすでに獣並みに低下している様であった。筋力を増強する為に危険な薬品を使い過ぎたのかも知れない。

私は物影に身を隠した。幻術を使って逃げる位の事は考えたが、薬に破壊された神経には、そんな子供だましは効果はないだろう。どこかへ逃げ込もうにも、気配を察知した住民達は固く門戸を閉ざしている。

「間に合わなかったか」
それだけは、物憂い昼下がりにふさわしいのどかな声がした。
「僕の探していた人だったのに」

食人鬼は顔を上げた。そして少し離れた所に忽然と現われた黒衣の天使を認めた。男は、獲物を喰らうのもしばし忘れたかの様に、突如現れた若者を眺めた。動物並みに堕ちた心にすら、その美貌は訴えかけたらしい。黒衣の青年はふと眉根を寄せて男の足元に落ちている銀のペンダントに目を止めた。

青年に変化が起こった。姿形が変化したのではない。だが白い極上の陶器の如き顔が冷悧さを増し、黒耀石の瞳は何人をも裁く事をためらわぬ峻厳の光を宿していた。青年の身体から沸き上がる気配に気押されて、男は低く唸り声を漏らした。
「お前は私に会った」
先程と同じ青年とは思えぬ、凍てついた声がした。
「ひと思いに殺るのを、せめてもの慈悲と思え」
わずかに青年の白い右手の指先が動いた。鋼鉄の刃物すら通さぬ強化サイボーグを真っ二つに切断したのが、不可視の妖糸である事を理解しえぬままに、男は死んだに違いない。

再び、あたりは穏やかな午後に戻った。青年はペンダントを拾い上げ、目の高さにかざした。茫洋とした声が言った。
「これから、幸せになるはずだったのに」

その声は、今ここで押し寄せる客をあしらう青年の声と同じだった。しょうゆせんべいに気を引かれたが、長蛇の列に並ぶ意欲はさすがになく、私は煎餅屋を後にした。


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