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魔界都市シリーズ

魔界都市・真夜中の潮騒

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「想い出のサンフランシスコ」が流れている。

歌舞伎町の狂乱もこの地下の店までは届かない。グラスを片手に誰もが一人の思いに耽っている。白い医師の姿も時折見掛けるという。居酒屋「ポルト」はそんな店だった。

カウンターでジン・フィズを前に、私はぼんやりと店内を眺めながら音楽に 耳を傾けていた。寡黙なバーテンダーが一人、優雅な手付きでグラスを並べている。

I left my heart in San Francisco・・・

かすかに潮騒が聞こえた。〈新宿〉では珍しい事ではない。どうしたはずみか、海に繋がっている場所が幾つもあるという。この近くにそういう所があるのだろう。

男が入ってきた。私より少し離れた所に腰をおろした。どこか疲れはてた気配が男から漂っていた。 上物らしい背広もワイシャツも薄汚れている。
「『シンギング・レディ』をくれ」
バーテンダーはうなづくと、無駄のない動きでウォッカにクレーム・ド・ バイオレット、ブルー・キュラソー、カンパリをステアして、慎重に カクテル・グラスに注いだ。冴えた水色の小さな海が、グラスに生まれた。男はそれをしばらくの間愛しげに見ていた。 やがて白い曇りがグラスの表面を乙女の恥らいの様に覆い、中身を隠した。それは霧深い海の姿だった。男は一気にグラスをあおった。人は誰でも海を持っている。だから涙は海の味がする・・・ そんな事を言った詩人は誰であったのか。

店の奥の扉から、一人の女が現われた。浅黒い肌にぴったりとした黒のドレスをまとっていた。形のいい足で踊る様に歩いて来ると、女は男の隣にすわった。男は女の方を見ずに空のグラスを見つめていた。目顔で、女はバーテンダーにお変わりを命じた。小さな海がふたつ、二人の前に置かれた。
「とうとう、見つかってしまったわね」
「遠くへ行く者は、皆ここへ来る」
男は初めて女の方に向き合った。わずかにグラスを掲げて、乾杯の仕草をすると、また一気に飲み干した。
「急ぐの?」
「君次第だ」
バーテンダーがちらりと壁の時計を見上げた。
「もうすぐですよ」
二人は立ち上がった。元気でな・・その背中に他の客の声が掛けた。二人を見て黙ってうなづく者もいた。店内の客達を見回して、二人は軽く会釈した。そうして店の奥へと歩いていった。 扉を開けると、中から海鳴りが溢れ出し、店中に響き渡った。二人がその向こうに消え、扉が閉じられると、海鳴りはぱったりと止んだ。

人々はまた、自分の世界に戻った。私の前に新しい酒が置かれた。
「二人の船出と、いつか貴方にも来るであろう旅立ちの為に」
バーテンダーは微かに微笑んでみせた。私も笑顔を返した。この店の名が異国の言葉で港の意味を持つ事に、私は気がついた。

I left my heart in San Francisco・・・

私は小声で繰り返してみた。最後の街の名前だけ変えて、もう一度歌ってみた。

I left my heart in・・・

懐かしい、だが二度と訪れる事が出来ない街の名だった。

潮騒が聞こえた。
それは私の中の海の音だった。

(終)

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